少し























深い意味は無かった
ただそれは、多分いつもと違った
溜息と一緒に出てきた言葉

仕事でちょっとへまして、
久しぶりに幽と会う約束もキャンセルになって、
他にも些細なことが重なっていった。


ほんの少しの会話で
ねえ、どうして?なんで?
さっきからその繰り返し
教えて、教えて
と、1つの言葉に10を要求されているような煩わしさ
煙草はさっき吸ったので最後
別にいつもなら大して気にならないのに
今日はダメだった

「も、めんどくせー」
「シズちゃん?」
ソファから腰を上げる
「・・・」
「ねえ」
玄関に向かって歩き出す
「・・・」
「ど、こい、くの」
片言につむがれる言葉
「は?」
「・・・・」
掴まれた背
「なんだよ」
「・・・・」
向きなおすと、俯かれた
「別に、どこも行かねえよ」
「・・・・」
髪に触れても、顔を上げない
「煙草切れたんだよ、ほら」
「・・・・」
そう言って、空箱を見せる
視線だけ向けて、顔を上げない
無理やりこっちを向かせても、
目を合わせない
「どうしたんだよ」
「・・・・」
全然こっちみねえな
「・・・・」
「・・・・」
たった一言
「臨也」
「・・・・」
普段より少し、言葉に疲れが乗っただけで
「おい」
「・・・・」
傷ついたのか
「・・・・」
「・・・・」
あんなに喧嘩して、 怒鳴り散らしてもビビら無いくせに





・・・・嗚呼、怒りには慣れてるのか
ほんと、
「めんどくせー」
「・・・」
言葉に怒りをのせると、
やっと目が合った
やっぱ、そうだ
それでも、何か伺うような顔をするから
出来るだけ優しく
「・・寿司、食いに行くぞ」
「・・・何?」
「好きだろ?」
「・・ん」
くしゃっと髪を撫でると、
罰の悪そうな顔をするから
そのまま、引き寄せて
髪にキスした


「・・・・・悪かった」
「・・・頭が?」
「殺すぞ」
「冗談だって」

俺を追い抜いて、玄関に向かう足取りが
妙に浮かれてて、おかしくなった

「ったく、安上がり」
「寿司が安いなんて、シズちゃん高級取りだっけ?」
「そっちじゃねえだろ」
「ん?」
ボケてんのか、しらばっくれてんのか、
そういうとこは嫌いじゃない


「なんでもねえよ」


そう言うと、満足そうに笑った。