falls and stops







































冬の入り

雪が降っている
視界が落ち着かないほど



おかしい

いつもなら、手近なものを持ち上げて、
思い切り放り投げているはずなのに


「何やってんだ」
「・・・・ん?ああ、シズちゃん」

そうしなかったのは、
「風邪、引くぞ」
「えー?はは、どうしたのシズちゃん、優しー」

いつもの殺気がない
視線が合った時のあの面も
見下したようなあの目も
耳が腐りそうになるあの声も
イライラする感じがない

肩と、頭に積もりきった雪を払う
俯いたままで、表情が読み取れない

「おい、どうした」

「・・シズちゃんさ、俺をすぐ見つけるよね」
「そうだな」

「なんで、見つけちゃうかなー」
「さあな」

頬に手を伸ばす
臨也の腕を振る仕種がスローモーションに見えて
よける気にすらならなかった
「っ痛」

手だか、腕だかがにナイフの切っ先が掠った

文句は溜息にすらならない白い息になった
ナイフを持つ手首を掴んで、そののまま引いたら、
案外簡単におさまった

「・・・らしくねえんだよ」
「はは、ごめん」

それが、らしくない
その癖ナイフは落とさない

「なんで」
「あ?」

「抱きしめちゃうかな・・・」
「知るか」

そう言って、顔を埋めてくる

「離せよ」
「寒ぃ」

クスクス笑う声がして、
背に腕がまわされる


「シズちゃんって、ほんと想定外」
「そーかよ」

「つーか、ナイフ仕舞えよ」
「どうしようかなー」

刃が背に当たっている

頬に手を当てると、
雪が軽く溶けて、凍りかけている髪が冷たかった

「刺すかもよ?」
「だったら、このまま潰すぞ」
「それは、やだな」

そう言って目を瞑る

らしくない
お前も、俺も

雪が降っている

少しずつ、肩に頭につもっていく

凍りかけの唇にかぶりつく、
合間に目が合えば、
もう、逸らせなくなる


「ちょっと、シズちゃん」
「ああ?」
離れた唇が近づく瞬間に、邪魔された

「人通ってるの見えないの?」
「見えねえな」

何かと思えば

いつもより少し開いた瞳を無視して、
その距離を埋める

ナイフは捨てたのか、しまったのか、
両腕が首に回される
視線を絡めたまま
水音と漏れる声に、酔いそうになる

嗚呼、首噛みつきてえ

「・・・帰るぞ」
「んー」

何があったかは聞かないし、その気もない
あいつも言わない
そうやってまた、喧嘩になるのも面倒だ

「シズちゃん 」
「あ?」
「シャワー借りる」
「ああ」
「俺先ね」
「はは、ざけんな」
「あ、あと眠いかも」
「・・・」
「ってか、寒い」
「遅えよ」

そう言って、凍りかけてる髪をぐしゃぐしゃに梳いた