なんてことはなく(プロローグ)

























「いざやくん」
「ん?」
「あのね」
「何?」
もじもじと、サイケがやって来た



「えっと」
「んー?」
「お願いしてもいい?」
「何、どうした?」
「・・・つがるに会いたいの」
「・・・それ必然的にシズちゃんに会うね」
「だめ?」
会いたいけど
「会いたくないなー」
「うー」
「毎回連れて行くのもね」
「いざやくん?」
「じゃあ、これ上げる」
「ん?」
「使い方わかるよね?」
「うん」
「知らない人に話しかけられても、ついていかない事」
「はい」
「何かあったらすぐ電話すること」
「はい」
「行くときは必ず俺か、波江さんに言うんだよ」
「うん、ありがとう」

頭を撫でる
「あ、目立つ格好はしないこと」
「はい」

「行ってきます」
「いってらっしゃい」



サイケといると、
実家にいた頃を思い出す。
あの頃はうまく出来なかったことも、
今スムーズに出来るのは、
あいつらとサイケが違うのか、
俺が変わったのか。



あ、そうだ
携帯をとる

「うぜえ、電話してくんな」
「だったら、出るなよ」
「あ?」
「サイケがさ」
「・・・」
「津軽に会いたいって」
「で?」
「今向かってるから」
「はあ?あいつ一人で大丈夫なのか」
「なにそれ、ま、そういうこと」
「あ、おい、切んな」
「なに?」
「・・・てめえは?」
「何?」
「どうするんだよ」
「何言ってんだよ、シズちゃんも仕事中でしょ」
「あー、だから」
「・・何?」
「・・あ、露西亜寿司の割引券」
「・・・・」
「・・・・」
「・・9時」
「?」
「9時にはそっち着ける」
「ああ、待っとく」



通話を切って、
なんとも言えないこの感覚を消したくて、
携帯を放る


「あ、波江さーん」

「あれ?なーみーえー」
「・・・うるさい」
「酷いなー」
「なに?」
「今日用事あるから、適当に帰っていいよ」
「そう、これポストに入ってたわ」
「どーも、あ、これ」
「目通したら貸して、向こうの棚でしょ」
「流石。あと、」
「メールは返信済み、FAXいつもの分は終わってるわ。
で、これと、このファイルが朝言われた分よ」
「・・・」
「何か?」
「いいえ」
「いってらっしゃい」
「まだ、行かないけど」
「どうせ行くなら、サイケと一緒に行けばいいのに」
「あー、」
この女は本当に鋭い
「顔崩さないでくれる?気持ち悪いわ」
「酷いよね」
「あの子を見習ったらどう」
「誰に似たんだろ」
「誰にも似なかったのよ」
「そうだよね」
「良かったわね」
「はい」
全くその通りで