サンタクロースの子守唄





















毎年毎年
期待するつもりはないのに、
気にしてしまうようで
何だかんだいって、仕事が入っている方が気にせずにいられる
ただ、今年はそうもいかなかった
前日仕事が終わって
家に帰って、軽く溜息をつく
休みだからって特に何もないし
予定だって、特に、ない
学生の頃から
こういう日、普通の人間だったらどう過ごすんだろうか、と
家族が居た頃は、家族と過ごした
友人が居れば、友人と過ごすのか
恋人とか・・・
また、溜息




日付も変わりそうだ
普段ならこんなに時計だって見ないのに
仕事中も、できれば少しでも普通に一日が終わるようにと、思っていた。

「風呂入るか・・」
熱いシャワーを無心で浴びて
いつも通り
できればいつも通り
風呂を上がる
ほら、いつもなら寝る前位しか見ない携帯に目が行くし
電源切ろうに切れないし
落ち着きやしねえ
けど
「あ゛?」
着信やメールが来ると光るタイプで、
緑が点滅していて
メールが来ている知らせで
ほら、やっぱ期待してる
半渇きのまま開く
少しでも、少しでも
普通に
でも、できれば少しでもと
らしくないことばかりのぞんで
「なっ」
瞬間的に入った力で携帯の液晶が割れる
あー、また
今年は入って何個目だか

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送信者:のみむし
件名:なし
本文:シズちゃん死んで(^□^)
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浮かれてた
人が生まれた日まで、ちょっかい出しやがって
しかも、日付が変わった時間かよ・・・
浮かれていたせいか、
いつもなら、体中の血が高速でまわっていくような感覚も
今日はすぐ冷めた

なんだかなぁ


「ん?」
よく見ると、メールに続きがあって、
随分スクロールした先に、あと10分と書いてある
ああ、そうか
俺もお前も
素直に物が言えてれば
こんな関係にはならなかったんだと
妙な納得をして
とりあえず、冷蔵庫の中身を見たけど
大した食料もないし
携帯の文字盤がこわれたのか、
うまくメールも打てないし、
液晶も見えづらいし
そうこうしていると、ドアを叩く音がする
「・・よぉ」
「・・・・寒い」
「十分暑苦しい格好してるじゃねえか」
「シズちゃんの基準で言われるとねぇ」
「うるせえな、つか、てめぇはこういう日位・・・・」
「どういう日?」
そう言って、意地の悪い、でも決して不快じゃない顔をする
「だから・・」
「ちゃんとメールしただろ?あと10分で着くって」
「・・・」
「ほら、ケーキ買ったし、プリンも、あとチュウハイ」
「おう」
「寒いんだけど」
「ああ、入れよ」
「入っていいんだ?」
「うるせえな」
「祝ってくれるなら俺ですら嬉しいんだもんね、化け物のシズちゃんは」
相変わらずの憎まれ口も今日は気にならない
一々キレる余裕がない


臨也が部屋に上がって
その背をすぐ抱きしめた
「も、うるせえよ」
「らしくないなー、期待した?」
「・・・」
「ん?」
肩口にうずまると髪を撫でられる
「・・少し」
「そっか、そうだよね」
「冷てえ」
「シズちゃんは風呂上りでしょ、石鹸のにおいする」
「ん」
「おめでと」
「おう」
「気にしなければ過ぎて気づくのにね」
「・・・」
「子供の頃はそれなりに待ち遠しかったのにね。なのに、今じゃ余計寂しくなるよね」
「ああ」
こいつにしては珍しく素直な物言いで
「どうした?」
「明日正確には今日だけど、君の予定知ってる?」
「いや」
「きっと、良い事があるよ」
「?」
「俺はすぐ帰るから、楽しみにしてなよ」
「終電ないだろ」
「タクシー」
「・・・・」
「泊まってけよ」
「珍しいね」
「いつも止めないのに、お楽しみはとっておきなよ」
「それ、てめえはいないんだろ」
少し驚いたような、寂しそうな顔をされる
「俺そういう立ち位置だろ、いつも」
「んだよ」

首筋にキスをしても
舐めても
くすぐったがるだけで
「なあ」
「だめ」
「なんで」
「・・甘えたい?」
そう言われて甘えたいといえるほど俺も素直じゃない
「・・・」
「大きい子供」
「・・・」
「珍しく引かないね」
そう言って首に腕がまわる
「てめえもな」
「明日の俺の仕事は君を誘導することだよ」
「来ればいいだろ」
「いつも来るなって言う癖に、てか、邪魔しないよ。流石に。」
「そんなに俺忙しいのか?」
「良い事じゃないか、化け物の君も人並みの幸せが味わえるよ」
そうでも、
そうであったとしても
結局選ぶのはいつも
「臨也」
「ん?」
「お願い」
「・・・」
頬を両手ではさんで、目を合わせる
「返事しろよ」
「・・・・わかったよ」
お前じゃないと意味がないだろ
今日一日中期待したのは結局お前だったんだよ
だって、俺を知ってるやつが全員今日を知ってるはずないんだ
よく知るやつも、俺を人間扱いしてくれるやつも
今日を知ってるほうが少ないんだ
少なくとも俺は言ってない
だったら、そいつらは誰かから知るんだろ
そんなの、お前しか居ないだろ


「今日すっごい甘えるね」
今日くらい甘やかして
頬に
甘やかして欲しい
瞼に
ちゃんと愛したい
唇に
できれば愛されたい
触れるだけのキスを繰り返す
「ダメか?」
「ほんと大きい子供」
そう言って頭を撫でられる
ちょっと気恥ずかしさもあったけど、
大人しくしていた
「ありがとな」
今日も、これから起こることも
「いいえ、全部受け取ってあげてね」
「ああ」
「きっと良い事があるから」
まるでサンタを待つイブの夜みたいに、
嬉しいのとほんの少し不安とで、
眠れない子供みたいに
だから、眠る気にはなれないから
「ケーキ食べよっか?」
「おう」


いつもより時間がゆっくり流れていけばいいのに
と思いながら
触れて、離れて、触れてを繰り返していく
「楽しみにしてて」
眠りたくないのに
まるで魔法の言葉みたいに
何度も繰り返すもんだから
すぐ睡魔に襲われる
目が覚めて、ほんの少しでも良い事が有れば
良い事がなくても
目が覚めて一番にお前が映れば
それで充分
髪を梳く手を掴む
多分力は入ってない
「・・・帰るなよ」
「おやすみ、いい夢を」
夢の中に落ちる瞬間
随分優しい声だった。