もどかしい




































「・・かはっ」
それは突然
視界を散らつくほどの衝撃と振動とを
喉元にうける
吐き出す声も掠れてしまいそうなって
手放しかけた意識をなんとか手繰り寄せて
それでも、はっきりと状況を認識するには数秒
「首の骨いったかと思ったよ」
「そりゃあ残念だ」
首には化け物の手がかかっている
これは流石にやばい、が
「・・・・」
「・・・・」
「シズちゃん?」
「喋るな殺す」
「理不尽」
「うるせえ」
「・・・?」
「・・っ・・・」
口を開いて息だけ漏れて
結局言葉が来ないし
手は相変わらず俺の首だし
左手のせいかあまり力は入っていないけど、
額には血管が浮いてる
ちょっと挑発するだけで、喉潰されそうだし
でも、この緩さなら凌げるか
ただ、なんとも言えない違和感が
そう逃げる算段を考えながら
ふと、シズちゃんの右手に視線を落とした
そこには取っ手付きの白い小さな箱
「・・・?」
「・・・・ぅ」
その視線に気付いたのか、首にかかる手の力が増す
あー、面倒臭い
ナイフを取るはずの両手を伸ばして、
軽く口を開けると首元の手は離れる
「ん、」
唇に触れたって、抱きついたって結局微動だにしない
祝う気あるのか、なんて聞いたら暴れそうだなぁ
でも
「シズちゃん」
「・・・・」
怒らないんだ
暑くも無く、寒くもなく
たまに風が吹いて
どうしたものかと
そのまま、もしかしたら数分は過ぎたかもしれない







そもそも、素直に祝えるわけが無い
嫌いなのに
愛せないのに
なのにこうやって抱きついて
一体どうしたらいいんだろうね
上手く何か言葉が出てくればいいのに
今日はもうダメだ





突然、シズちゃんの左手が俺の頭を撫でる
「・・今から」
「・・・」
「出来るだけキレねえようにするから」
「うん」
「てめぇも気持ち悪いこと言うな・・」
「・・・」
気持ち悪いことって、人類盲目博愛的なことだろうな
「・・・・」
「・・・うん」
「GWは」
「うん」
「どこ行っても人が多くてよ」
「そうだね」
「明日久しぶりに休み貰ってよお」
「うん」
「帰り道ケーキ屋がセールしてて」
「母の日も近いからね」
「それで・・」
「うん」
「買いすぎた」
「うん?」
「で、人混みが無い所でこれ食いたいんだよ」
そう言って、溜息する
間違えないように言葉を選んで、紡いで
たったそれだけなのに、
随分疲れたと言う様な溜息だった
「・・・じゃあ、うち来る?」
「・・おお」
たったそれだけなのに、
何してんだろうね、俺達は
後ろ髪を軽く引っ張られて、少し体が離されると
今度はシズちゃんからキスされる
もう本当に、囁く程度の声で
おめでとうが聞こえて、
返事を返す前にケーキの入った箱が視界に入る
「持ってろ」
「ありがと」
たった、それだけのことなのに、ね





好きだって事は認めよう
満足気な顔で隣を歩く君へ
だから尚更
どうしたって、どうやったって
器用には振舞えない