なんてことはなくVer静雄






























最近見ねえな
と思ったが最後
次の取立てまでの休憩中
空になったコーヒーに煙草の吸殻を落としながら

最近、会ってねえな
と。
そう思っても、
会いに行く理由も、口実も見つからない

タイミングも気分も
いつだって読み違えるし、間違う

電話が鳴ったって
相手がそうだとしても
咄嗟の言葉は癖の固まり

「うぜえ、電話してくんな」
「だったら、出るなよ」
もうそれが挨拶みたいなもんだ

サイケが会いに来る
それだけを告げて電話を切ろうとする
「あ、おい、切んな」
「なに?」
「てめえはどうすんだ」
「何言ってんの、静ちゃんも仕事中でしょ」

サイモンと話してたトムさんが戻って来た
ああ
もう時間が切れる

「あー、だから・・」
「・・何?」
やっぱりもう諦めようか、溜息をつこうとしたら
トムさんの手に何か握られている
「・・あ、露西亜寿司の割引券」
「・・・・」
「・・9時なら」
「・・ああ」

と電話を切った
時間が経つに連れて
どんどん足が重くなった
口が開かなくなった気がする

「ありとうございます」
「今日は次で終わるしな」
トムさんがニカっと笑う
周りに助けられないと、会う約束もつけられないのが不甲斐ない
背中を軽く叩かれて、次の取立てに向かう

借りを作る順番でも決められば
まだ会いやすいのに