なんてことはなくVer臨也






























どうしてだか、
急に会いたくなった
仕事が一区切りする度に、
思い出して
会いたい、会いたいと
ひたすら繰り返して

何度目かの区切りで、
「あのね、いざやくん」
サイケに呼ばれた
「どうしたの?」
もじもじと
遠慮しながら、
でも何か言いたことがあるらしく
どうしようか、それは告げてもいいことなのかと、
悩んでいるようだった
「どうした?」
「・・つがるに会いたい」
そう素直に告げるサイケを滑稽に、でも愛しく思って
そして、津軽に重なるアイツを思い出して
悲観的になって
会いたいけど
「会いたくないなー」
と発してしまう自分が
残念で
けど、相変わらずに安心する。

結局サイケを一人で行かせて
自分は大人だから
とか、
我慢できるほどの気持ちだから
とか、
もやもや後悔しそうになるのを
コーヒーと一緒に飲み込む

誰も聴いてはいないのに、言葉にできず溜息を吐いた
携帯をとる
行ったから、と
一言告げて切るだけでいい
すぐに切れば良い

「うぜえ、電話してくんな」
「だったら、出るなよ」
「あ゛?」
「サイケがさ、津軽に会いたいって」
「・・で?」
「今、向かってるから」
「はあ?あいつ一人で大丈夫なのか」
「なにそれ、ま、そういうこと」
「あ、おい、切んな」
「・・なに?」
「てめえはどうすんだ」
「何言ってんの、静ちゃんも仕事中でしょ」
「あー、だから・・」
当たり障りの無い会話の方が気持ち悪い
要領を得ないこの感じが
たまらなく
「・・何?」
「・・あ、露西亜寿司の割引券」
片言
君が先に譲歩してくれれば、まだ
傷は浅い
「・・9時なら」
「・・ああ」
素直に喜べないことも知っている
そういう風にできてることを理解している
他に理由が無いと電話もできない
その癖頬が緩みそうになるから
意識的に気をそらす

「あ、波江さーん」
聞こえてるだろうに、一度目で返事はくれない
「なーみーえー」
「・・・うるさいっ」
隣の部屋からそれはそれは面倒そうに歩いてくる
「酷いなー」
「なに?」
「今日用事あるから、適当に帰っていいよ」
訝しむような目はいつも通り
どうやったって卒なくこなしてくれる

「いってらっしゃい」
「まだ、行かないけど」
「どうせ行くなら、サイケと一緒に行けばいいのに」
「・・あー、」
目をそらした
機会があれば雇い主すら喰ってしまいそうだ
「どうかしたのかしら?」
「いやあ、実に愉快だねえ」
「それ、誤魔化してるつもりなのかしら」
「・・つもりだよ」
「気持ち悪い」
「俺泣くよ?」
「だったらもう帰るわ」
身一つで玄関へ向かう
どちらかが折れたら、もう一方が突き放す
暗黙のルール
「冗談だよ。あ、郵便受け見てきてくれるかい」
「そのつもり」
勝てそうに無くて、ヒラヒラと手を振った

「・・会いたくないなあ」