まどろみの中まで
ただ歩いているだけだった
走りもせず、スキップもせず
歩道をただ歩いているだけだった
突然肩を何かが掠る
アスファルトに突き刺さった公共物を見て
ああ、またか、と
「ホント、会いたくないときに限って見つけてくれるよね」
振り向いてナイフを構えた
今度は一般市民の自転車を持ち上げている
200mは下らない距離があるのに
そのまま放る気だろう
ビルとの隙間に逃げ込む
どうにも様子がおかしい
声も荒らげず、当てる気もないように物を投げ
静かに追いかけてくる
「やる気ないなら追いかけないで欲し、ったいなあ」
振り向くと勢い良く抱きしめられた
「あのさあ、君暴れてる時ってリミッター外れてんだから、加減しろよ」
「・・ん」
少し力が緩んだが、それでも縄で締め付けられるように痛い
「痛いって」
「・・・悪い」
背をパシッとたたくと、また少し緩んだ
それからそのまま動かない
あーすごく面倒くさい
「・・ねえ」
髪を少しひっぱっても返事は無い
「どうしたの」
頬とか首に髪があたって気持ち悪い
「・・・静ちゃん?」
首元に顔を擦り付けると
腕の中から介抱された
叱られた子供みたいにむっとしているから
思わず噴出してしまった
「何それ」
「・・・・・」
「プリン買ったげようか?」
「いる」
目もあわせない
「じゃあ後でね」
そう言って頭を撫でると目を瞑った
「ん」
仕事が終わったら、せっまい家に寄ってやろう
そう思って、自宅に帰ると
扉が半壊していた
「何でこっちに居るんだよ」
「・・寄るつっただろ」
「たっかいマンションの修繕費いつも俺持ちなんだけど?」
「お前が遅すぎんだよ」
「俺のせいかよ」
さっきよりは随分ましだけど、声が少し疲れてる
ソファに座ったまま、目はとりあえずテレビを向いている
まあ、いいか
台所で冷凍庫を開ける
「お前何食ってんの」
「アイス」
「俺のは」
「冷蔵庫にプリンあるし」
「ん、褒めてやる」
そう言って頭を撫でる
「何様だよ」
するとそのまま、後ろから抱きしめられる
「ちょっと」
「・・・」
「食べづらい」
「あー」
顔を横から出して口を開ける
「プリン食べろよ」
「後で」
「手、洗ってこいよ」
「洗った」
これは面倒くさい
何をするにも寄ってくるのだから
抱きつくのに飽きたのか
静ちゃんはソファでプリンを食べていた
その隙にお風呂へ、湯船に浸かってぼーっとしていると
突然ドアが開く
「お前何勝手に風呂使ってんだよ」
「・・冷えた」
「あ、そう」
「閉めてよ、寒い」
「・・ん」
すると素直に戻っていく
移動するときくらいプリン置いておけばいいのに
頭を拭きながら、リビングに入るとまた
奴は近づいてくる
そうされるとわかってて抱きつかれるのが、
何だか心臓に悪い
「石鹸の匂いするな」
「風呂入ってきたから」
当たり前だ
「うん」
何で風呂上りの俺より体温高いんだろ
「静ちゃんは?風呂いいの?」
「いい」
どうしようか、聞いてやるべきか
「もう寝る?」
「んー」
「そっか」
寝室まで行くと、ベッドに引っ張り込もうとするから
「何かあったの?」
とわざと聞けば、あからさまに手を離す
「・・いや」
「そう」
リビングに戻って、アイスとかプリントかのゴミを片付ける
妹達をあやすのに近い
気がする
こういう時と、バカみたいに酔った時は
寝室に戻ると首元を緩めた程度で、眠っている
苦しくないのだろうか
自分もベッドに入ると
静ちゃんがもそもそ動く
「ベルト位はずせば」
「・・ん」
とりあえず返事だけ聞こえたけど
無意識なのか、面倒なのか
ベルトをはずし、首元をもう少し緩めてやると
結局抱き枕みたいに、しがみつかれて
これはきっと寝にくいだろうな、と思いながら
規則的に聞こえてくる寝息に
妙な安心感を得ていると
「おやすみ」
と声がして、そのまま眠った