cherry
















たまたま、外を歩いていて
たまたま、通った道で
たまたま、会っただけで、
特に用なんて無かったのに
今こうして一緒に居るのは





「いつも配達してるよね」
「あ、はい」
ほんのちょっとの言葉でも、
変わったイントネーションで、おどおどしている
「・・かわいいよね」
「え!?」
「喋り方」
「あ、私、日本語、あんまり上手、じゃない、です」
「そう?普通に聞こえるけどね」
「そう、ですか?」
「うん」

テーブルに項垂れて、見上げたまま話しかけてると、
落ち着かないのか、下ばかり向いてて

「どうしたの」
右手で三つ編みに触れる。
いまどき珍しい
「緊張、して、ます」
「なんで?」
三つ編みの紐を指に絡めて
「はずかしい、から」
「なにが?」
そのまま指を引くと、簡単に紐は解けた
「・・っ」
今度は、三つ編みに指を絡めてゆっくり解くと、
言葉が急に止まった
その代わり顔は真っ赤になってて、
「髪下ろすのも、かわいいよ」
何か必死に喋ろうとして、口をパクパクさせながら
でも、結局何も喋れないでいる。
「おいで」
髪を指に絡めたまま、頬に触れて引き寄せる
左手で、もう片方の三つ編みを解きながら、
唇に触れて、
解き終えるまで唇を離さなかった。

解き終えた髪先を、指で遊びながら、
顔を両手で隠しているこの子を、
ずっと見ていた。


一頻りたつと、やっと覆っていた両手をはずした。
「落ち着いた?」
「少し」
「そう」

夕日の色が段々濃くなっていって。
時計を見なくても時間がたっていることがわかる。
「まだ、帰らなくていいの?」
「あ、えっと」
「配達の途中じゃなかった?」
「あ、はい」
「うん」

結局どちらも動こうとしないせいで、夕日は沈んでしまった。


「あの、」
多分今日初めて、先に話しかけられた
「なに?」
「名前、おしえてください」
名前とか知ってるだろうに
「雲雀?」
すると、首を振られた
「ああ、恭弥」
「きょうや」
繰り返して、微笑んだ


「きょうや」
「うん」
両手を伸ばして、引き寄せて
ギリギリ唇が触れないくらいで、
「きょうや」
名前を呼ばれてから、
塞いだ。

唇を離れて、
両手を握って、
顔は隠させなかった。