溜息と吐息と桜の木









季節はずれの風が吹いた
髪を揺らすそれが、妙に心地良くて動けなかった

視界が淡いピンクに染まって、
無性に腹が立って、そして、視界が遮られる


「遅いよ」
「すみません」
約束なんてしていないし、待っていたわけでもないけど、
「はー」
「どうしたんです?」
「別に」
ちらちらと花びらが視界に入る
「・・・・恭弥」
ふいに、名を呼ばれ、手で視界を遮られた
「っ・・何してるの」
「いえ、別に」
「・・んっ」
口を開いて文句を言う前に、口をふさがれた
簡単に舌を入れられて、口の中を蠢く
「ん、ん・・ふ・・・・ん・・」
唇がゆっくり離れていく
「変態」
「クフフ、久しぶりですね」
「さあ」
「相変わらずですね」
「君もね」
空を仰ぐと、桜が咲き誇っている
桜を見ると
「会いたくなるんですよ」
「へえ、それにしては随分遅かったね」
桜は満開で、後は散るだけだ
「どうせ会うなら、長く居たいじゃないですか」
「そう」
骸の顔が近づく
骸が目を閉じないから、その瞳を見ていた
「っ・・・・・ふ・・んぁ・・」
最中頭を後ろから抑えられる
それが何か、癪にさわって、
骸の髪を両手でぐしゃぐしゃにする
合間に名前を呼ばれて、漏れる息がくすぐったい
「はぁ、ん・・・んんっ・・・・」
段々荒くなっていくそれのせいで、息ができなくて、目に涙が浮かぶ
構わずに、舌を絡めてくるから、髪をぐしゃぐしゃにしていた両手で、
骸を引き寄せて、自分からは絶対に唇を離さない
互いの吸い付く水音が耳に響いく
意識が薄れていって、結局どちらから離れたのかわからなかった
「っ・・・はぁ」
軽い酸欠で、膝が崩れそうになるのを、骸が支える
「・・むかつく」
「クフフ」
肩で息をする自分に比べて、ほとんど呼吸を乱していない
「はー」
溜息をつくと、首元に顔を埋めてきた
「恭弥、どれ位ここに居たんですか?」
「さあね」
「桜の香りがします」
「気のせいじゃないの」
「好きですよ」
「そう」
骸の肩口からぼんやりと、桜を舞うのを見ていた
「相変わらずで、安心しました」
「ふーん」
「久しぶりに会ったのに、言ってはくれないんですか?」
「言わなくても、わかるでしょ」
「ええ、わかりません。」
「何それ」
「クフフ」
「好きだよ」
「はい」
にやついていることくらい見なくてもわかる。

触れている骸の体温が遠のいていく、
「すみません、時間切れのようです」
「そう」
ほんの一瞬唇に触れて、そして、離れた
「それでは」
「・・さっさと戻ってきなよ」
「はい」
そう言って骸は、寂しげに笑った
骸の気配が完全に薄れる前に、その場から離れた
「・・・あれ?ここどこ?」
後ろで女の声がしたけど、振り返らなかった
整いきっていない息とか、濡れた唇とか、感触とかが、
風に揺られながら、薄れていく
「はあ」