駄々






















「はぁ・・・は、んっ・・・・」
膝が崩れた
気がついたら、足場は血の海
体中に染み付く他人の血
いつもなら、微塵も気にならないその紅が
気持ち悪くて、
気持ち悪くて、
しまいには、吐き気すら・・
「ベルせんぱーい」
理由はわかってる

「あん?」
「スクアーロ隊長からでー、撤収だそうです」
「はーあ、つまんねーの」
「散々暴れたじゃないですかー」
「うるせえよ」
イライラする
「ってゆーかー」
「あん?」
「一発目の攻撃、何でよけなかったんですかー?」
「・・・」
「もしかして、、うげっ」
ナイフを3本投げた
あーとか、もーとか唸り声を無視して、
踵を返す
ただ、早く、帰りたい














本部に着くなり、部下たちの視線が刺さる
戦闘のあとは、いつもそうだ
「先輩どこいくんですかー」
「・・・」
「報告は・・」
「任せる」
「そんなー」



あまり使っていない自分の部屋は通り過ぎて、
スクアーロの部屋に入る
いつものソファに

何もしたくない・・・




髪をいじる
「あ、血が」
「・・・おい、それは止めろ」
ナイフを持った手を掴まれる
「ん、だって、血」
「洗えばとれるだろ」
「切ったほうが早いじゃん」
ため息が聞こえる
「貸せ」
適当に髪を掴まれる
「お前、シャワー浴びて来い」
「なんで、」
「血だらけだ」
「ん?あー、めんどい」
適当に触った髪に血の固まった感触
べたついてる感触はすきなんだけどなー
こうやって、固まってくると気持ち悪い
紅黒くなって、土色になるともっと気持ち悪い

「・・・来い」
「あ・・っ、と」
腕を引かれ、バスルームに連れて行かれた
「ちょっと、服、、、あー」
隊服の上から浴びたシャワーで、
自分の体温がどれだけ低かったのかを知った
かろうじて、ティアラだけ外してはくれたが、
スクアーロの服もびしょ濡れだ
「何やってんだよ」
「それは、お前だ」
「ん?」
血や肉で固まって絡まった髪が、
少しずつ解けていく
そういえば、記憶が飛ばして戦ったのなんて久しぶりかも
頬を伝って、足元に落ちていく血と肉と
そして、たまに金色の髪




シャワーが止まって、バスタブにお湯をはる
ん?泡?
「ちょっと、せめて服脱がせろ」
「てめぇで脱げ」
腕を上げる気にすらならないのに
「ん、やだ、きもい・・・」
「我慢しろ」
シャンプーの泡が、首筋を通って、隊服と肌の間に流れ込む

「目、瞑ってろ」
「・・ん」
頭から泡が流れ落ちる
さっきより少し軽くなった気がする
ばりばりした感覚も無い
けど、服は濡れて肌にへばりついてるし、
排水溝は薄い土色の水がつまりかけてるし
体が重い
耳鳴りみたいに記憶が巡る














「別にミーは、どーでもいいんですけど
ベル先輩が、ロンゲ隊長に惚れてるのなんて、
誰が見てもわかりますしー」
「あ?」
「隊長はどうなんですかねー」
「何が」
「我侭ばっかの堕王子の相手ですよー」
「・・・」
「ミー的にはー、」
「っ、黙れ」
気配がする
殺気立った気配
それを感じて、フランも黙る
集中して相手の居場所を探る
いつもならすぐ感じ取れるのに、
気が散って、集中できない
何かが飛んできたが、避ける気にすらならなかった
「ってー、くそ・・・」
どくどく音がする
「あ、はぁ・・」
傷口から心臓の音がする
血が流れる音
どんどん視界が染まる
紅で
「あー」
肉の綺麗に裂ける
飛び散る音、色、声
体中の神経が殺気に反応する
「ん、しし・・・あー?」
恐怖にでどんどん歪んでいく表情
「・・・バイバイ」
どんどん肉の塊ができていく
ぼとぼと落ちていく










どろどろの隊服を脱がされていく
その度に、肌を擦れて気持ち悪い
「スクアーロ」
「なんだ?」
「あいつ、嫌だ」
「・・」
「・・オレ、フランと組むの嫌だ」
「・・・そうか」
頬を撫でられて、顔を上げれば唇が重なる
「ん、んぁ・・・・は、ぁ・・」
「入ってろ」
「ん、スクアーロも入るんだ?」
「そうだな」
泡と血と水で汚れてる服を脱ぎ捨てるスクアーロを、
湯船からぼんやり見ていた
言ったからって、何が変わるわけでもないんだけど





「ベル」
「ん」
引かれるまま、寄りかかれば、ぎゅーっと抱きしめられる

「ぁ・・・、んっ・・」
首に舌が這う
「・・スクアーロ」
「ん?」
顔を上げたスクアーロと視線が絡む
口を開いて、何か言いかけて、止めて
結局出てきたのは、
「好き?」
「ああ、好きだ」
そんなもん。
軽く口を開ければ、舌を吸われるから
「ふ、ん・・・ぁ、んんっ・・・」
きもちい、まぶたが重たい
「寝るなよ」
「むり」
「ベル」
「ん、や・・・眠い、って・・・・」
唇を離すのも億劫で
うとうとしながら、睡魔と酸欠を行ったり来たりする
「・・は、んんっ・・ふ・・・ぁ・・・はぁ、」
唇が離れる
「・・・・も、寝る」
「ああ、おやすみ」
「ん」
髪を撫でられる感触を感じながら、
今度こそ本当に、意識を手放した