秘め事





「いらっしゃいせませ」
この掛け声でいつも始まる。
校内の女子生徒がたくさん来ては、
キャーキャー言いながら、帰る。
クラスの人もいれば、顔も見たことない人だって居る。
そんな女子生徒の為にあるのがこのホスト部。





部活に不満は無いけど、
ただ、この中途半端さが最近もどかしくて仕方がない。




腕を絡めても、頬に手を伸ばされても、
結局そこで終わり、
抱きしめるくらいで、唇に触れることなんてないし。
どれだけ近くに、光が居ても、
ただ、それだけで終わってしまう。
女子生徒達の歓声の中、
いつも通りの光と、いつも通りの僕と。
それだけ。
これ以上近づけない。
光の瞳はまっすぐ僕を見てて、
その中に僕が居て、
でも、それだけ。





ほら、もう離れてしまった。
また他愛ない話をしていると、
どこがでガラスの割れる音がした。
正確には陶器だから、カップが割れたんだと思う。
一斉にその音に視線を送る、
お客も、僕らも。
そこには、一人の女子生徒がいて。
多分、その人が落としてしまったんだろうけど、
僕はその真相を知らない。
だって、音の方に視線を向けた瞬間に、
僕の両頬は光の手にはさまれて、
そのまま口付けられてしまった。
「んっ・・・・光!!」
大声を出したつもりは無かったけど、
ガラスの音で静まり返った、その場に僕の声は凄く響いて、
集中していた視線は、全て僕に向かってきた。
「馨君どうかなさったの?」
「どうかしたのか?」
上手く答えられなくて、慌てて光を見ると、
意地の悪い笑みで、僕の手を取った。
してやられた、今僕の顔は真っ赤で。
視線なんて泳ぎまくってるし
「お前が余所見ばっかするから、無理矢理向かせたんだよ」
「だからって、今接客中なんだからっ」
すると、
「何があったの?今見てらして?」
「私も見損ねてしまいました・・」
女子生徒達騒ぎ出して、途中ありもしないことが聞こえたり、
黄色い歓声が上がったりと、
そんな所じゃなかった。
皆はいつもの事のように笑うけど、
僕は結構真面目にびっくりしてて。
「光」
小さく笑っていた光は、僕の頬に手を当てた。
さっきみたいな笑い方じゃなくて、
嬉しそうにはにかんだ顔をする。
そんな顔されたら何も言えなくなるのに、
「だって仕方ないだろ」
「何が?」
「馨の考えてることすぐわかるんだよ」
僕だって光のことはわかる、
ただ不意を突かれるのは、
僕が光をわかるより、光が動く方が早いってだけで
「馨、怒った?」
「別に、びっくりしただけ、わかってるくせに」
「うん」


「光君、馨君さっき何があったの?」
いつの間にか、部活はいつも通りの雰囲気を出していて
「ああ、さっきは・・」
「恥ずかしいよ光、言わないで」
「恥ずかしくない、馨は可愛いよ」
「光・・」
また、女子生徒たちは特有の歓声で、騒いでいる

ほら、もう元通りでしょ?
いつも通りの光と、いつも通りの僕と。
ただ、いつもと違うのは手を握ったままだって事