変わらないこと


























「何したの」
「・・・別に」
「大ちゃんっ」
「ちょっと、殴った」
「え?嘘殴ったの!?」
「・・おー」
「手は?」
「どうもねえよ」
すぐに両手を掴んだ
大事な手でしょ
「あるよ、腫れてるじゃない」
「平気だろ」
「駄目っ、すぐ冷やして」
握った手に力を入れる
「・・・・わかったよ」
面倒くさそうに、仕方なさそうに返事する

何で?って聞いても
どうして?って怒っても
多分ダメなのは何となく知ってる
「怪我しないでね」
「・・悪かった」
ぼそっと聞き取れるギリギリの声で呟いた
多分殴ったことは反省してないんだと思う
なんとなくそう思う
全然違うこと考えてるでしょ
前より皆の試合見るようになったもんね
なんとなくだけど思ってたよ
ずっと一人だった時
誰も追ってこれないって、
努力じゃ報われないって思ったんでしょ
でも、そうじゃなかったんでしょ
「そうだね、全面的に大ちゃんが悪いかな」
「言いすぎだろ」
「ふふ」

テツ君やかがみんは青峰君に勝って
きーちゃんは皆のコピーまでできるようになって
元々皆の伸びしろは先が全然見えなかったけど、
この短期間でこんなに強くなるなんて
私も正直思ってなかった
でもね
「ずっと考えてたよ」
「何をだよ」
「誰かきっと来てくれるって」
「何だそれ」
「だって皆で居た時凄く楽しそうだったもん」
「・・お前も居たろ」
「ふふ、大ちゃんってばわかってないね」
「なんだよ」
「羨ましかったんだよ」
「何が」
「誰かが躓くとね、必ず誰かが手を引くの」
「・・何の話だよ」
「バスケの話」
「・・・・」
「でもね、誰も弱音吐かないし馬鹿にしないの」
確かに皆
個々の力が飛びぬけていたけど
それでも、
それだけじゃ駄目なことなんていくらでもあった
まだそれぞれの形が定まってない頃は、
ちゃんと助け合ってたでしょ
「凄く良いチームだと思ったよ」
たくさん息をすって、両手を握り締めて言ったのに
寂しくて心臓のあたりが痛くなった

怖いって言われる回数が増えた
何考えてるのかわからないって
何も考えてないって言うけど
たくさん、色んなこといっぱい考えてるのを
知ってる

あんまり目を合わせなくなった
何見てもつまんなそうにして
ただ起きて、食べて、眠って
何も
私も
バスケすらも
映ってないんじゃないかって

言わなかったけど
聞かなかったけど
ほんとはね
少しだけ私も思ってたよ

男の子は助けてって言わない
勝手に一人で歩いて行っちゃうから
連れてって欲しいのに
せめてどこ行くか位教えて欲しいのに
置いてかれるのは
いつも
いっつも
「泣くなよ」
「泣いていないっ、ってか今そういうこと言っちゃ駄目だから」
「泣いてんじゃん」
「もういいのっ帰る」
「待てコラ」
「うるさい引っ張るなー」
左手を掴まれたから、右手だけで顔を隠して俯いた
「そのまま帰れんのかよ」
「帰れないよバカっ」
「やつあたりか」
「大ちゃんのせいでしょっ」
長い髪は下を向くと色んなものを遮ってくれる
「・・・・思い出した」
「何を?」
「ブスっつったら泣いたろ」
「いつの話?」
「あれ、嘘」
「当たり前でしょ、女の子にブスとか絶対言っちゃだめなんだから」
「そうだな」
「そうだよ」
今嘘って言った
左手繋いでてくれる
ずっとそっぽ向いてるけど
泣き止むの
多分ずっと
待っててくれてる
結局やさしいのは知ってる
ちゃんと

ボタボタと涙が落ちて
目が腫れてるのがわかる位熱くて
「大ちゃん」
「なに」
「お腹すいた、奢って」
「はは」
そうやって笑う顔は
やっぱりずっと変わらないから
だから今日は
それで
許してあげる