心配事























「あ、黄瀬君が」
「うおっあいつ泣いてんじゃん」
泣いてる
負けて悔しい、というよりは、
負けたことに驚いているような、
放心しているようだった

やっと気づいたのかもしれない
同じチームじゃなくなったこと

それに彼は優しいから
この額の傷に随分動揺したんだろう
勝ったと言っても海常も誠凛も
チームとしての足並みはまだ揃っていない

「おい、アイツ大丈夫なのか?」
「そう、ですね」
負けると彼は少しだけ止まってしまう
でもすぐに、海常のキャプテンに連れられ
僕達も掃けた

「黒子君はまず病院ね」
「・・はい」

診てもらっている間
熱も冷めていって
少しずつ、また、ほんの数ヶ月前のことを思い出して
浸って
「大丈夫かよ」
「あ、はい」
今は違うってことを認識して、少し
また浸る

自分の行き先が見えて
視界が開けてきて
そうして、少しずつ回りが見え始めてきて
段々見損ねていたことがわかってきて
またね、と言った顔が気になった

ほんの数ヶ月前なら、
大丈夫ですか?って声をかけるタイミングがいくらでも有って
すぐ視界に入っていたら、何となく雰囲気を掴めていたのに

あれから一度も送ってないけど、
メール位出そうかと思って
けど、何を書いていたのか思い出せず
良く考えたら、いつも返信ばかりで、
新規作成なんてしたこと無かった気がする
開いて閉じて、鞄に仕舞って
また、取り出して
家に着いてしまった

食事していても、お風呂に浸かっていても
地味に気になって、仕方なく
大丈夫ですか?と、メールしてみた
すると、数分経たずに携帯が鳴る
「はい」
「黒子っちどうしたんスか?」
「特に、というか、メールに電話で返さないでくださいよ」
「いや、びっくりして」
「・・・」
本当に特に意味は無いんですけど
ただ
君が泣くと、
「心配、します」
「・・ぁ、と」
「少し、気にしてしまいます」
「黒子っちが気にするようなこと無いっスよ」
「だったら、もっとしゃきっとしてください」
「すんません」
「・・・」
「えっと」
「・・・」
掛かった電話をこちらから切るわけにも行かず
「黒子っちって家から誠凛までどんくらい?」
「・・・」
と、唐突に
「・・そう、ですね、多分」
とか、クラスがどうとか
朝練が何時から有って、とか
次いつが休みで、とか
数ヶ月していなかった普通の会話をしているうちに
何がもやもやしていたのかわからなくなって、
段々眠くなる

「黄瀬君、そろそろ寝ます」
「そっスね、俺も眠くなってきた」

別に始めて電話したわけでもないのに
切るタイミングが掴めなくて
けど、何時間も電話したのは初めてかもしれない

「黒子っち無理して無いっスか?」
「はあ、君は」
「え、怒った?」
「君の方が心配ですよ」
「・・・うん、大丈夫っスよ」
「僕も大丈夫です」
「うん、じゃあ、また」
「はい」
電話を切ったと同時に目を瞑るとすぐに眠ってしまい、
中学時代の夢を見て、火神君や、先輩達が出てきた気がするけど
目が覚めたら何も思い出せなかった

電話を切った後すぐに
またバスケしようね。とメールが入っていて
はい
とだけ書いて返信した

それだけで伝わることを思い出した