言いたい、聞きたくない


























言葉にも希少価値がある
薄れてしまうものがある
君は簡単に言うけど
僕はまだ受け取る気がない

「あ、ねえ黒子っち」
「なんですか」
「マジバ寄ってこうよ」
「はあ」

最近では空気で察せるようになった
息遣いで何を言おうとしているのか
わかるようになってきた

「ね、黒子っち好」
ズゴーとシェイクを鳴らせる
「ちょ、っと」
「なんですか」
「いいえなんでもないです」
だから、受け取る気はないんです
「そろそろ帰りませんか」
「えー、早くないっすか?」
「普通です」
「んーじゃ、俺んち来ないすか?」
「・・・・はあ」

何とは無くブラブラと歩いて
買い物して、一人では中々入らないようなお店に入って
何回目かの黄瀬君の部屋で
やっと落ち着いてのも束の間

「くーろこっち好k」
「黄瀬君っ」
「うわ、はい」
「明日の練習試合なんですけど」
「はいっす」

そう言って紙とペンを出す
近くにあった月バスも添えて
他校の試合内容、フォーメーションとか適当
真面目な顔して離す

そうやって
色んなものに気を逸らさせながら
時間がどんどん過ぎる

「じゃあ、送るっすよ」
「結構です」
送るって女の子じゃあるまいし
「えー、ちょっとだけ、そこまで」
「はあ」
「あ、ストバス寄ってく?」
「そう、ですね」
嫌いなわけではない
今は

けど
でも
どうしても

日が暮れて
街灯だけの公園とコート
肌寒く空気がしんとしている
ボールを持って
ただゴールが眺めていた

「黒子っち」
「黄瀬君」
聞きたくないんです
「きっとバスケは、今しか出来ませんよ」
「?」
「今じゃなきゃ、できませんよ」
後悔しないためにも
「うん、恋愛も今しかできないっすよ」
聞こえないように、遮るように
ボールを放る
キレイに放物線を描いて
キレイに
キレイに
がこっ
「あ、はは黒子っちそっからはずすんすか」
「うるさいですね」
青峰君はリバウンドする前に掴んで入れてしまう
火神君はリバウンドするまで待ってくれる
君は
「黒子っち、もっかいもっかい多分こうやったらいけるっすよ」
「簡単に言わないで下さいよ」
「大丈夫だって」
「手をこんな感じで、で、膝を」
「こうですか」
また放る
「リングにも当たらないじゃないですか」
「あれ?」
君はきっと
何でも
どれでも
「黒子っちこうやって持つでしょ?でね・・・」
「はい」
視線をゴールに
肩の力を抜いて
膝と肘と手首と

「好きだよ」
「・・・・あ」
「油断したっすね」
君はもっと
ほかにたくさん
色々
様々なことがあるでしょう
大事なものが
大切なことが
だから
「そうですか」
「うん」
返事は一生できません
君が選ぶまでもない
そんなこと
知ってる
それでも
君は
もっと先を
もっと真っ直ぐ進んで欲しい
立ち止まらずに
「あ、黒子っちこれならいけるっすよ多分」
「ちょっと、」
後ろに回って手を添える
「行くよー、せーの」
「っ」
必死にタイミングを合わせて飛ぶ
「ほら、ね?入ったっしょ」
夜の街灯
反射する髪色

僕もですよ
そう告げる事はないけど
それでもどうか
と繰り返す
心の中で
何度も何度も
離れていきませんように