今はまだ


































黒子っちが急に立ち上がって
離れてしまう気がして
急に
「行っちゃうんスか?」
「え?」
手を掴んでしまった
「あ。いや何でもないっス」
「・・・」
黒子っちは結局
そのまま席に着いた
「あはは」
「どうかしたんですか?」
「いや、何やってんスかね、俺」
「はあ」
「・・・」

大きな目がこちらを伺う
その目で透視とかしてもらえないっスかね
そうすれば、このもやもやした感情も
言葉にしなくても伝わるのに
また性懲りも無く
同じ事を考えてしまう


もし俺を選んでくれるならって
離したりしないのに
ちゃんと同じ視線で
同じ所で会話するのに
わかる努力をするのに
それなのに
振られてばっかだ

聞けないことがある
簡単に玉砕する言葉がある
俺じゃだめかって
その一言は
もう多分立ち直れなくなる位の威力がある
返答がわかりきっているから
どうしてもそれは
言えない
どうやったって聞けない


「どうしたら良いっスかね」
「・・何がですか?」
「はは」
「・・・」
苦笑い
するしかない
二人きりなると
やっぱダメだ
余計なことばかり考えて
余計なことばかり言ってしまう
君の
虚しさの原因は知っていた
薄々気づいていた
多分わかってた


「俺は邪魔になってないっスか?」
結局出た言葉は
卑怯で勝手で
自分で舐められる程度の傷にしかならない

「どうしてですか?」
「質問で返すのは無しっすよ」
「えと、すみません?」
「・・・」

ちゃんと区切りを付けたいから
思い切り叩きのめされたいのに
それで立ち直れる自信が
いつものらしさが
どうしても
あと一歩が


「黄瀬君」
「はいっす」
「僕、何かしましたか?」
「ううん、ただ俺の被害妄想っスかね」
「そうですか」


直球、ストレート、たまに攻撃的
シンプルで、ダイレクトに鳩尾を抉って
たまに誤魔化す

それはそれで
案外心地良かった

俺は黒子っちみたく、言葉上手くないから
これを何て言えばいいのかわからない
ただ、楽しかった
ただ、つるんでただけだった
それだけでしかなかった


「やっぱりちょっと、勝手でしたね」
「・ぁ」

そう言った君の顔を
自重するような笑顔を見て
少しだけわかった

なんだ
楽しいも、寂しいも、
ちゃんと残っていて
君の中に有って
それが俺と同じだって言うなら
俺の片思いじゃないなら
もう、いいよ
俺は、いいよ


「今度は相談してほしいっス」
「はい」
「それがダメなら、挨拶くらいしてほしいっス」
「はい」
「それ位俺は信用してたんスよ」
「すみません」

黒子っちはいつだって
真っ直ぐ聞いてくれる

「黄瀬君は」
「ん?」
「怒るとこうなるんですね」
「へ?」
「意外と粘着質ですね」
「え〜?何スかそれ」
「ふふ」

自分でもびっくりした
今まで追いかけたことなんて、
無かったのだから

そっか
俺も、変わったのか
皆、変わるのか
君も

「はあ、黒子っちには何回振られるんスかね〜」
「あの、それ気になってたんですけど」
「?」
「僕告白されてません、よね?」
「・・・」
「違いました?」
「っ、はは」
「・・何で笑うんですか」
「いや、ちょっと、不意打ちっス」
「・・・?」

今はまだ、この先
どうなりたいかなんて、わからないけど
仲直りできたから
整理できたから
また、こうやって会って
話が出来るから
追いかけた甲斐があったから

まだ、いい
だから、いつか


「じゃあ、何れっス」
「?」
「何れ告白するんで、ってことを告白したんスよ」
「意味が、わかりません」

うん、いいよ
わからなくて




俺も君も




何れきっと、わかるから