来年は



























「あー俺も飲み物買えば良かったっス」
「上げませんよ」
「下さいも言って無いっスよ〜」
少しずつ空気の湿度が増して
日が少しずつ沈んでいこうというの
中々気温は下がらない

「それにしても、黄瀬君今日はいつにも増して凄い荷物ですね」
「あー、今日俺誕生日なんスよ」
「・・・え」
「ん?」
「そう、ですか」
「そっス」
「・・・」
「朝から女の子達が離してくれなくて」
「それは聞いてないです」
「でもこういうのって、やっぱ何貰っても嬉しいっスよね」
「そうですね」
そうか、それで
「あ、飲みますか?」
「へ?」
バニラシェイクを差し出す
「飲みかけですけど」
「・・ん?」
「さっき意地悪してしまったので」
「やった」
両手が塞がっているので、口元まで運ぶ
「うまー」
「当然です」
「んー」
「オメデトウゴザイマス」
「はは、ありがと黒子っち」
とはいえ、これだけはあんまりだろうか
「あ、」
「すんません、全部飲んじゃったっス」
「・・・」
ま、いいか
「何か欲しい物はあるんですか?」
「黒子っちも何かくれるんスか?」
「まあ、常識の範囲内なら」
「じゃあ」
「・・・」

彼のことだから
またふざけたことを言い出すかもしれないので、
一応右手の拳は準備しておいた

「黒子っち」
「はい」
「来年もお祝いしてほしいっス」
「・・・」
「ダメっスか?」
「・・ぁ、いえ、わかりました。」
拍子抜けした
そんなことでいいのか、と
てっきり何か欲しがるかと思ったから
というか誕生日なんてイベント、聞かなくても言いにきそうなのに
来年って
ああ
「まあ、まだ先っスけど、来年は俺ら高校じゃないっスか」
「そうでしたね」
高校、か
まだ遠い先のようにも思えるし
案外あっという間に来るのかもしれないけど
とにかく、現実味は沸かない
もしかしたらその漠然とした何かを
彼は既に感じ取っていたのかもしれない
来年


「意外でした」
「へ?」
「てっきり物を欲しがられると思っていたので」
「んー特に今欲しい物って無いんすよねー」
「確かに物欲無さそうですね」
というか粗方手に入ってしまうんでしょうね
彼の場合

それに、これだけ沢山のプレゼントを貰えば
もう欲しい物も無いか、

「黒子っちはいつもどうなんすか?」
「僕ですか?」
「そ」
「そうですね、大体誕生日を知ってる人が少ないので」
「わー」
「家族、ですね」
「へー、ケーキとか食べたりするんすか?」
「まあ」
言われてみれば、自分も特に欲しい物が見つからない
小学生位の頃は何が欲しいとか、
何を貰ったとかで一喜一憂していた気がするが

そうだ
「ありました」
「ん?」
「黄瀬君、頭下げてください」
「へ?」
「もう少し屈んでください」
「ん、はいっす」
頭を撫でる
「お、どうしたんすか?」
「・・・」
母親にされたそれを思い出して
髪を梳くように優しく撫でる
「黒子っち?」
「いつもよく頑張ってると思います。」
「わ、褒めてくれるんすか?」
「仕事も、バスケも
勉強はもう少し頑張ったほうがいいと思いますが」
「はは」
「これからも頑張りましょうね。涼太君」
「・・ん、頑張るよ」
「・・終わりです」
「んー」
少し力の抜けた笑顔で
「何か黒子っちのことお母さんって言いそうになったっス」
「僕はテツヤ二号と同じ要領でした」
「えー」
「冗談です」
「嬉しかったすよ」
「それは良かったです」
その表情が
あの時の自分と、少しでも同じならいいと思う


来年か
来年はどうしようか

と、巡らせてみる