増えた時間

時計の音より確実に早くなってる心臓へ。 「落ち着け」 落ち着くんだ私! 「・・・・しぬ」 何度も見直した、メール。 〜日付は今日、時間は10時。 『迎えに来るから』〜 と。 「あ〜やっぱ髪結んだが良いかな?」 時刻は9時半 睡眠時間は3時間。 これでも結構眠れた方だと思う。 「ってか、スカート?やっぱ、でも、う〜ん」 鏡の前で格闘することはや2時間。 とりあえず服も着たし。 「はぁ、息が。」 一緒に帰るのはだいぶ慣れたし、 ってか、会話もかみ合うようになったし。 でもムリ、デートはムリ。 最近練習ばっかで、二人で居ることとか全然無かったし。 真面目にデートって初めてだし。 「エミリー、客だぞ」 「はーい」 誰だろ?中山とか? 「よう」 「え、カズ様!?」 「いや、なんか早くついたから、あ、外で待っとくから///」 「え、いやいや、すぐ行きます!」 「おう//」 やばい、やばいぞ私。 カズ様の顔見ただけで、呼吸混乱に;; っと、かばん持った。髪普通だ。スカートも頑張った。 「よしっ」 「カズ様、お待たせ。」 「おう」 とりあえず、町に出るみたいだけど。 ってか、会話ができない。 息ができない。 カズ様をちょっと見てみると、 まっすぐ前を向いてて、 「え、なに?」 「あ、いやなんでも。」 「ごめんな、なんか急がせたみたいで」 「ううん、そんなことない」 「姉ちゃんが絶対遅刻すんなって言うから」 「あ、お姉さまが。」 「・・・今日は、その・・スカート着てんのな」 カズ様は視線を前に戻した。 「あ、うん今日はATなしだから、普段は全然着ないんだけど。」 ってか、家にこれ一着しかありませんが;; 「女の子は服違うと変わるよな」 「そうかな?」 「うん、か、かわいいと思う//」 「あ、ありがとうございます//」 照れる、照れるって!! 「あ、カズ様あれ、あの店」 「あ、おう」 かわいいとかカッコいいとか、あからさまなんじゃなくて、 クール?な感じの、落ち着いてるお店。 アクセサリーがメインで、少し服とかも売ってて。 でも、一人でこれる所じゃない。 カップル客が多くて、賑わってるからいつも、外から眺めるだけだった。 「へ〜」 「あ、これいい、こっちもいいっ」 「はは」 「カズ様?」 「いや、女の子はやっぱこういうの好きなんだな」 「カズ様はきらい?」 「あ、いや、男でも好きな奴は居るよな、うん。 俺は多分、こっちのが好きかな」 「あ〜成程、シルバー系か。了解」 脳に刻み付けねば 「あ、じゃあこれは?」 「うん、それいいな」 あんまりごつごつしてない指輪、 飾りもそんなについてないし、シンプル。 「けど、家におきっぱでつける習慣が無いからな。」 「あ〜私も最近AT履くから全然だ、」 「でもエミリはそれ、いつもつけてんのな」 そりゃこのパワーストーンははずせない。 「お守りだから。」 「そっか。」 それから、少し見て、 結局何も買わなかったけど、ずいぶん楽しんだ気がした。 目に留まった店に入ったり、 バッティングセンター行ったり。 勿論あっという間に時間は過ぎるわけで。 暗くなってる空が憎らしかったり、 止まらずに進む時計が恨めしかったりしながら、 でもその間ずっと、そばにいれたことが嬉しかったことも事実だから。 こういう時間を繰り返して、 つなげていきたいと思った。 「暗くなったな、時間大丈夫?」 「うん、うち門限とか無いから」 「そっか。じゃあさ、ラストに学校行こう」 「うん」 学校に着くと門の前で、カズ様はカバンをごそごそしだした。 「?」 「いや、癖でさ。」 そういって、カズ様のカバンからATが出てきた。 「今日持ってきてないだろうから、抱えてく」 「あ」 カズ様が指差したのは、 「月?・・・あ、わかった!」 「うん、丁度いい場所にあるから。」 そこは、前にカズ様が教えてくれた場所、 校舎と校舎の間に出来た隙間。 その中で月を捕まえる。 カズ様に抱えられて、門を越えて、 そこについた。 どんなに空が高くても、この手一つで捕まえられそうなのに。 「エミリ」 「なに?」 「頑張ろうな、」 「うんっ」 「手、貸して」 「・・?」 「それ、やるよ」 「うわぁ」 小瓶の中に、水が入っててその中を 小さなキラキラしたものが浮いてる。 「かわいいv」 そして、小さな三日月が入っていた。 「捕まえた」 カズ様は、はにかんだように笑った 「うん。ありがとうカズ様。家宝にする!」 「まじで?」 カズ様が手を握ってくれて、 その手の間に三日月を閉じ込めた。 そこに居たのは多分十分位。 手を握ったまま、 会話もそんなにしなかったけど、 手のぬくもりで温まっていく小瓶を、 感じながら月が逃げていくのを見続けた。 伸ばしても届かないけど、 この手の中にあるものだって、 私にとっては本物だから。 追いかけ続ける私に、 たまに立ち止まって振り返ってくれるなら、 私はそれで十分だと思った。