心安








































「どうした?」
「・・・ん」
胸辺りの服を小さな手が握る
先ほどまで少しずつ呼吸が長くなっていたのに
今は冴えてしまったのか
大きな瞳で見つめている
「目、覚めたのか」
横になっている少女に対して
こちらは間もなく落ちるところだったせいか
ぼやけつつ問いかける
「今日はね、満月だったの」
「・・・そう、か」
言葉が途切れるのを確認してから返事をする
問いと答えとを数回
ただ繰り返す
「起こしちゃったのかなってミサカはミサカは尋ねてみる」
「いや、起きてた」
「そっか」
左程崩れていない掛け布を整える
その間も小さな手は服を掴んだまま

満月と夜空とを考えて一番星をみつけて、
あれが金星だろうか、と
いつだったのか、誰だったのかもわからない言葉や景色を
こうやって思い出す
使われず整理できなかったものを
少しずつ揃えていけば
いつか必要になる日がくるかもしれない


やっと掴んでいた手が離れた
「あのね、眠る前とか起きた時とかにね、
こうやってあなたとお話するのが好きなのってミサカはミサカは打ち明けてみる」
「そうかよ」
多分自分でもわかる程度には
会話も内容も砕けているせいだろう
何が打ち止めの眠気を妨げているのか、気にしながら
ゆっくり息をする

「あのね」
小さな手が俺の左手を掴み、自分の胸に当てる
「心臓がねドキドキするのってミサカはミサカは伝えてみる。急にドキドキして眠れないの」
「・・・」
いくら体が小さくても、眠る前の心音にしては早い
「・・息、ゆっくりしてみろ」
「・・うん」
息を吸って、吐いて
意識的に呼吸をするから、肩が動く
左手を解き、横腹に触れる
ゆっくり、呼吸に合わせるように触れる
ポン、ポンと落ち着かせるように撫でる
いつの間にかこちらの呼吸もつられながら、
少しずつ息が深くなるのを感じる

小さな口が少しだけ開いたが、言葉は発さずに閉じた
手を止めると、寝息が聞こえて
そこで自分の目も閉じた