睦み戯れ






































意外と簡単なことで
やろうと思えばできることで
ここに居て
そこに居て
あとは、自分を許せれば
それで多分成立するもの

部屋の中で片方を耳に当てる
もう片方は打ち止めが、部屋の外、廊下からたまに中を覗き込む
糸が少しでも緩むと聞こえない
「あのねー、糸電話聞こえてるー?ってミサカはミサカは小声で尋ねてみたり」
「聞こえてる」
「ふふ、今日の晩ごはんはね黄泉川特製ハンバーグだよーってミサカはミサカは伝えてみたり。
中にチーズが入ってるのー」
「また炊飯器で作ってんだろ」
「そうなの、でも今度ケーキも作ってくれるって、ミサカもお手伝いするんだよ」
「食えるもの作れよ」
「ホットケーキミックス使うから失敗の可能性はとっても低いかもってミサカはミサカは考察してみる」
確かに
打ち止めがドアから半分顔出す
「ずっと一緒にいてねってミサカはミサカはお願いしてみる」
ああ
「・・そうだな」
ちゃんとわかってる
耳のすぐ近くで聞こえる声に
あの雪の中
手を離してしまったこと
諦めるとこだったことを思い出して
かみ締める
「それから、・・・・よ」
途中糸が緩んだ
「・・・」
「おしまいってミサカはミサカは、」
「聞こえた」
そう言うと、照れたように、はにかんだように笑い
「恥ずかしいので退散ってミサカはミサカは両手で頬を押さえながら逃げ出してみたりー」
転がったもう片方を持って、追いかけると
脱衣所に入っていった
「風呂でも入るのか?」
「今は無理かもーってミサカはミサカは顔を隠して誤魔化してみたり」
「・・ダイスキねえ」
糸電話を振り回しながら呟くと
「きゃーっ」
あまりの慌てように、声を殺して笑う
「ピンってはらないと聞こえないって黄泉川言ってたのにーってミサカはミサカは歎いてみる」
「距離が近すぎんだよ」
「うう、」
覆った隙間から見える肌も、耳も、真っ赤に染まっているのは
いつもの、家族のような好意とは違うということ
それを、理解しているということ

小さく蹲る打ち止めに
いつもなら頭を撫でる手を耳の近くに、
髪を梳くように触れる
打ち止めの体が強張るのが愉快で、魔が差しそうになる
「あ、一方通行ぁ」
「どうした」
「ミサカはミサカは処理能力の限界を訴えてみたり」
今度は声が漏れて笑った
「ったく、誰の入れ知恵だ」
そのまま抱え上げると
やたらと熱い体温と早い心拍が伝わってきた
答える余裕もないのだろう

「ミサカにはまだ早かったのかも」
そう呟くから
そんなもの
年齢じゃなく
「慣れるものだ」
と、出来るだけ肌を近づけて言えば
掴まる腕に力が入り、小さなうめき声が上がる