「キングー?寝すぎだよー?」
うる、せえ
「ねえ、お腹減ったでしょ?起きようよ」
うるせえ
「ねーえ」
ああ、もう、うるせえ

目を開けて一番最初に見えたのは天井だった
いつもの
「・・・ぁ、夢か」
「どんな?」
「・・忘れた」
「なんや寝ぼけとんの」
グラスを拭きながら
こっちに視線を向けるわけでもなく
「かもな」
「・・おやおや」
とりあえず
「・・・はあ、タバコが切れた」
「行ってらっしゃい」

目が覚めればすぐに
いや覚める前からか
うるさくて仕方ない声が聞こえなくなった
俺を捨てられないようにした声が

呼ぶから
呼ばれるから、が
もう、呼ばれないままなら
お前が呼ばなければ
いんじゃないか
どうだって

お前も
自分も
他も
全部
この剣も

下よりも風が強く、冷たく
ここから何の抵抗もしなければ
俺だって死ねるのに

優しいとか、冷たいとか
大袈裟でうるさくて仕方ないのに
もう慣れたのに
増えていくのも
信頼されるのも

風が吹いてタバコ煙がすぐ薄くなる
何度目だったか
ここに上るのは
「・・・ん?」
いつの間についてきたのか、アンナが隣に居た

勝手でも適当で
無茶でも必死で
嘘でも矛盾してても
どれだけ理不尽でも
それでもどうだって良かった

けどもう
それも終わる

「寂しいの?尊」
「あ?」
裾を握る手が震えている
アンナにかからないよう、タバコを持ち帰る
「尊」
「さあな」
「・・・行かないでね」
どこに
「行かねえよ、今更」
「・・うん」


どこにも

行けねえよ