ドアを叩く音。
「…ラクス、こっちは終わったぞ。」
薄手の長袖を、肘のあたりまで捲り上げたアスランの手には、ハサミとかノリとか子供が工作をするときの道具が抱えられている。
「こちらも、もうすぐ終りますわv」
カードにハロのイラストを書きながら、声だけで返事をした。
心なしか楽しそうな声音で。
「ラクスさ〜ん飾り付け終りましたよー。」
アスランとドアの間からミリアリアが顔を出した。
「はい。では、ミリアリアさんはキラに電話をお願いしますわ。」
「OKー」
ミリアリアはそのまま子供部屋を出て行った。
「なんとか終わりそうだな。」
おもちゃ箱の隣にある工作箱に、片づけながら。アスランもまた楽しそうな声音で言う。
「ええ、楽しみですわvv」
「…ルナって器用なんだ。」
心の底から感心した声。
「失礼ね、ケーキ位作れるわよ」
クリームを平らにしながら、
逆にルナマリアは心の底から呆れたような声。
「へー」
それを聞きルナマリアは思いっきりため息をついた。
「シン!暇ならお皿とフォーク、メイリンのとこに持っていって。」
「ん、えっと何人いるんだっけ?」
「20人位、キサカさんと副長も顔出すっていってたから。」
「わかった」
「全くもう。」
キッチンを出るシンの背中に向かって投げた。
「あ、イザークさん。飲み物こっちにお願いします。」
テーブルクロスを整えながら、少し遠慮気味に
「…何で俺が」
あから様に面倒くさそうに
「そうゆうなよ。メイリンちゃん、はい。」
呆れつつも楽しそうに
それぞれ、分担された仕事を皆何とかこなしていた。
「ありがとうございます」
「いえいえ。ごめんね、こいつさこういう奴だから」
「オイ!」
「まあまあ」
宥め役のディアッカは、もうイザークの扱いに慣れた様子。
「メイリン。皿とか持ってきたよ。」
「あ、えっと・・」
「おい貸せ!並べるだけだろ!其れ位出来る!」
盛大に言い。シンから皿を受け取った。
「はいどうぞっ!」
不愛想に渡すシン。
「まあまあ」
部屋の中も外も賑やかだ。
必然か偶然か女が主導権を握り進められている。
ここは、マルキオ氏と子ども達、そしてキラとラクスの住む家。
子ども達は皆マルキオ氏をひっぱり、外の浜辺であそんでいる。
さざ波の音と子ども達の声は心地よく響いている。
precious<祝おう>
―どれだけ時間が経とうとも、癒されない物もある―
―まだ、何をすべきなのかも解らない―
―でも、何かをせずにいられない―
風が吹いている。
まだ、日は高い。
でも、暑くはない。
ドライブでもどうだ?と、聞かれて。
たまには悪くないかな?なんて想いながら、僕はアスランの車を借りた。
何をしていても時間は永く感じる。
する事が無いわけじゃないけど、ただ何と無く生きるには、
今という時間はとても永いと思う。
運転席に座ったまま眺める海は、とても綺麗だけど陽当たりが丁度良過ぎて眠気がしてきた。
そろそろ戻ろうかな。
エンジンをかけ、ギアを切り換えた時。
聞き覚えのある音がした。
「らく、す・・?」
・・・の唄?
「だよね?」
コンポから流れるような、でも小さな音。
エンジンを切ってみると。後部座席から聞こえてくる。
「あっ、携帯?かな」
そう思って、振り返ると。
案の定運転席の後ろ側のポケットに携帯が入っていた。
「アスランのだよね。出たほうがいいのかな?」
何となく見覚えのある色のそれは、ラクスの唄を流していた。
携帯を開けてみると。-ミリアリア-と表示されていた。
ミリアリアなら出ても大丈夫だよね。と思い。
通話のボタンを押した。
「もしもし」
「もしもしーキラ?」
「え、ミリアリア?どうしてわかったの?」
「えへへー。あのねキラ、今からカガリさん迎えにいってくれない?」
「−? うん、いいよ。今からいっていいの?」
「うん、急がなくていいからね。そのまま、こっちってか家に帰ってきてね。」
「わかった」
「じゃあよろしくネ♪」
「うん。」
ここからカガリのいる御屋敷はそんなに遠くないよね。
とめたエンジンをまたかけて、そしてアスハ家の御屋敷に向かった。
何となく、と言って持ちかけてきたドライブ。
楽しそうなミリアリアの声。
日光を浴びてキラキラした海。
程良い風。
でも、もう眠気はない。
僅に頬が綻んでいるかもしれない。