憂鬱な気分を顔から拭い去れないまま、
彼女が居るだろうダイニングの扉を開けた

バシンっ!!
「!・・・・レイ」
「・・・・・」
部屋に足を踏み入れた瞬間に、平手打ちが飛んできた。
こんなことが今まであっただろうか。
こんなレイの目を見たことがあっただろうか。
まして、その目から涙が流れている所など、
俺はきっと見たことがない。

「レイ」
「っ・・なんで、」
その目を見ればわかる、
言いたいことも、気持ちも全部。
「うっ、なんでよ、なんであんな事言ったのよ、」
「・・・・」
「レントンを息子として、迎えようって言ったのに・・」
「レイ」
「なんでっ、」
「・・」
「あなただってわかるでしょう?あの子きっと、出て行くわ」
「ああ」
「戻ってこないかもしれないのよ!?」
「ああ」
「ヤダァッ!、いやよチャールズ。レントンは私達の息子なのっ」
頬よりも、ドンドンと叩かれる胸よりも痛いものがあった。
どんなに、こらえても、耐えられない痛みがあった。
「うっあぁ・・・」
痛みを隠す為に、思い切りレイを抱きしめた。
レイだって、わかっていたはずだ。
何か、少しずつずれていく事も。
ごまかせないことも。
3つ並んだマグカップがやたらと切なかった。


「レイ、あいつは俺たちの息子だ。」
「・・」
「それは、ずっとこの先変わらない」
「っ当たり前よ」
「見送ってやろうじゃないか」
レイは、涙をぬぐった。
「っ、そうね。私達の息子だものね」
「ああ」











それから、1時間もたたなかっただろう。
俺たちは、パラシュートをつけたレントンを見て、
また、胸がきしんだ気がした。
もし、ここに居てくれたなら
そう願う、自分を必死に否定した。

「あの、一つだけ、いいですか?」
「ああ」
「僕のこと、知ってて声をかけたんですか?」
「当たり前じゃないっ」
レイは涙をこらえ切れなかった。
「そうですか。・・・それじゃあ、僕行きます。」
「ああ、」
また、来いなんて言える筈なかった。
「レイさん、チャールズさん、ありがとうございました。」
一礼した時のレントンの顔は、決して子供ではなかった。
そして、すぐレントンは外へ、ここから出て行ってしまった。
声を出して泣くレイを抱きしめ続けた。
いつまでも。