「ねぇ、デューイは?今日も来ないの?」 「大佐も忙しいんだよ」 手には、櫛と髪ゴム。 すっかりお気に入りの大佐と同じ髪型を、 結う時だけ、触れることを許される。 「ふーん」 何時ものことだ 誰が側に居ても大佐のことしか考えていない その目に私は映らない それでも 「アネモネ」 歪んでいても 「この前のパティシエの事だけど」 「来るの? 」 ほら 「ああ、来週になるけど」 「本当に?生チョコがいい!」 「大丈夫、伝えてるよ」 何が大丈夫なのか。 何一つ守れないのに。 何一つ伝えられないのに。 傍にいることしかできない癖に。 いくら気をひいても それでも 罪悪感は否めない 結い終えた鏡ごしの自分の姿に、酷く満足したようだ。 今日は、いつもより機嫌がいい。 「ドミニク、お腹すいた」 「ジャムがまだあったと思うよ」 「ストロベリーがいい、急いで」 「わかった」 いつまでこうやっていられるだろうか。 世話係はただの、名目。 ただ、誰よりも近くにいたいだけ。 なのに、離れるのが怖いから近づけない。 大佐のお咎めよりも、離れる方が尚恐ろしい。 ここに、彼女を気遣う者は居ない。 誰も、止めなくなる。 あの実験も、薬の投与も、type-the endでの戦闘も。 何も背負わせたくないのに なのに、 また、薬を打つんだ。自らの手で 離れるのが怖いから。 止める術を知らないから 「・・アネモネ?・・・寝てるの?か」 髪に触れる手だって、軍服にだって甘い香りが染み付いた。 何度洗ってもこの香りが抜けることはない。 なのに、この距離感。 例えば私が砂糖の塊になったなら 少しは構ってくれるだろうか? そんな仕方の無いことを考えていた。 アネモネから傍にいたいと聞けるだろうか? きっと、すぐ食べられてしまうだろうけど 今はまだ届かないけれど 綺麗なピンクの髪を弄ぶ 今だけは 今だけ 誰もいない 今だけは 二人しかいない 今だけ 頬に触れる 「・・・・ん」 だからあと少しだけ目を醒まさないで