flower

「ママ、見てこのおはな。私と同じ名前」 「まあ、よく知ってるわね。」 「パパが教えてくれたの、きれいなおはな。」 「ほんとに、綺麗ね。」 花瓶に生けてもらったその花。 その花は、血に染まり、花瓶は割れ。 もう二度とその花を見ることはない。 そう思っていた。 母の流れる髪が好きだった。 父の優しい顔が好きだった。 私が気付いたときには、いつも座っていたソファーは裂け、 真っ白だった壁は血に染まり。 3人おそろいの食器は粉々に砕けていた。 何があったかなんて、あの頃の私理解できるはずが無かった。 ドアが開いた。 この部屋に入る人間は決まっている。 言葉を交わしたいわけでも、姿を見たいわけでもない。 ただ目をつぶった。 その人は、ベットの近くまで来た。 後ろ髪の辺りで何かが置かれた感触と、音がした。 寝返りをうって見つけたそれは、遠い日の記憶だった。 「アネモネの花ね。」 「そうなのか?僕は花に詳しくないから。」 何で持ってきたとか、何を言いたいのかなんて、 聞くつもりは無い。 「アネモネの花言葉知ってる?」 「ごめん、知らない。」 「・・・消える希望よ」 「・・えっ」 やっぱり知らないのね。 「失敗ばかりしてるあたしへの当てつけね」 そんなこと思ってない。 「違うっホントにしらないんだ。」 わかってるわよ。 「・・救ってくれるの?」 「ああ」 ムリよ。 あなたじゃ私を救えない。 私は誰にも救えない。 私はあなたにすがりたくない。 重荷になりたくないの。 「やめて、あたしに縋らないで。」 「・・アネモネ?」 どうせ救われないのなら、こんな望み叶わなくていい。 死んでしまうその日まで、こうやって、そばに居てくれればい。 それだけでいいから。 死に行くときに、この花を連れて行ければ、それでいいから。 だから、お願いだから、縋らせないで。 お願いだから。