消えない希望

「私と一緒に来るかい?」 差し出された手をとる以外の方法を私は知らなかった。 戦争で焼けた町、動かない人。 全てを理解するには、まだ幼かった自分。 真っ青な空、真っ黒な軍人そして、その黒には所々赤が混じっていた。 軍に保護され、個室をもらった。 「・・ここは、家じゃない。」 天井を見上げてはそう嘆いた。 家が違うだけじゃない、世界が違う。 それでも、時間は勝手に進んだ。 「ドミニク、お前に見せたいものがある。」 中佐にそう言われ、私は病室に連れられた。 部屋の中には女の子が一人で、ベットに座っていた。 ピンクの髪とは対照的に、遠くを見つめる目はどこか暗く感じられた。 「身の回りの世話をしてもらえるか?」 「彼女のですか?」 「ああ」 そのまま、中佐は部屋を出て行った。 「・・あの、」 近くに来ても、彼女の視線が動くことは無かった。 「僕ドミニクって言うんだけど・・」 まるで聴こえていないようだった。 「・・よろしく。」 その日は、それだけを一方的に伝え、自分の部屋に戻った。 部屋に戻れば、また一人で、天井を見上げた。 今度は彼女を思いながら。 「・・笑うとかわいいだろうな〜」 微笑む姿を想像しながら、自分に任せられた仕事に満足していた。 ドアをノックする。 「・・おはよう」 彼女からの返事は無かった。 少しずつドアを開けて、食事を持ってきた。 「・・ご飯、どうぞ」 食事に全く興味が無いのか、見る事もなかった。 「・・・・食べないの?」 絶えかねて、聞いてみた。 「・・・」 でも、彼女は何も答えなかった。 食事を持ってきて、手付かずのそれをまた、もって帰る。 それが、3日続いた。 他の人は、それが普通だというけど、 私には不思議でならなかった。 自分の部屋の天井を見上げた。 何か自分と違う。 何かが違う。 ご飯も食べないし、言葉も話さない。 声を聞いたことすらない。 「・・何が違うのかな?」 天井に投げかけた質問も、帰ってこなかった。 その夜は、初めて家族の夢を見た。 戦争で両親を失ってから、1度も見たことが無かったのに、 頭をなでてくれる父そして、母が僕の名前を呼んだ。 「ドミニク」って。 そして目が覚めた。 母の顔を思い出すと、心が切なくなった。 「・・・・あ、わかった。」 なんだか、すっきりした頭。 不思議な夢。 違うんじゃなくて、無いんだ彼女には。 他の人にあって彼女に無いもの。 私は急いで部屋を飛び出した。