彼女には名前が無いんだ。 そして誰も彼女の名前を知らないんだ。 だったら、僕がつけてあげよう。 僕の大好きな名前を。 走って走って、辿り着いたのは、 軍の施設の中にある小さな中庭。 その端に3本の大きな木が並んでいる、少し先に、 昼間にだけ日のあたる、秘密の場所がある。 きっと誰もここを知らない。 また少し進んだ所に、僕の大好きな花が咲いている。 その花をポケットに入れて、 来た道をまた急いで走った。 部屋をノックする。 「・・おはよう」 少しずつドアを開けて、食事を持って入った。 「今日はね、実はね・・えっと、僕の好きなものを持ってきたんだ。」 彼女の前に食事をおいた。 さっきポケットに入れた花を取出した。 「あっ・・・どうしよう」 折角持ってきたのに、その花はポケットに入れていたせいで、 しわくちゃになっていた。 「ごめん、ポケットに入れてたから、、今度ちゃんとしたの持ってくるねっ」 今まで瞬きしかしなかった瞳をこちらに向けて、 不思議そうにその花を見つめていた。 「・・・フシギな、匂い」 「そんな、声なんだ」 初めて聞いた、彼女の声はとても透き通っていて、 綺麗だった。 「ねえ。よかったら君の事、アネモネって呼んでもいい?」 「・・・アネモネ?」 「そう、その花の名前なんだ。」 「・・別にいいけど、」 「ほんと?あ、じゃあ、ちょっと待って、もう一回。」 急いで僕は部屋を出た、ドアを閉めて。 そして、また開いた、いつもより勢いよく。 「おはよう、アネモネ!」 アネモネは少し驚いて、そしてすぐそっぽを向いてしまった。 僕は心配になって、近づいてみた。 「アネモネ?どうしたの?イヤだった?」 アネモネは何も言わなかったけど、 でも、僕はすぐにわかった。 恥ずかしそうに照れるアネモネの顔を見たら。 「アネモネ」 彼女はにっこり笑って僕を見た。 想像していたよりも、アネモネの笑顔はもっと可愛かった。 その夜は、アネモネの笑顔が頭から離れなかった。 ドアをノックする。 そして、ドアをゆっくり開ける。 「おはよう、アネモネ」 「・・おはよう、ドミニク」 ベットの横に飾られた、大好きな花。 ベットに座った、大好きな女の子。 「アネモネ」 今日もまた、アネモネと二人で過ごすんだ。