降る雪と冷たい窓

目が覚めてそこにあるものが、何かなんてどうでもよかった。 そこに何も無くたって、あたしは何も言わなかったし、感じなかった。 それが当たり前だから。 温度調節のされた部屋で、雨じゃない何かが降っている外を見る。 真っ白で、雨よりもゆっくりと落ちていく、 「雪が降ってたんだね」 「ゆき?」 「うん」 「そうなの、あの白いの雪って言うんだ」 「外は凄く寒いんだろうね」 「寒いの?」 「えっと、雪は雨より冷たくて、温度が低くならないと降らないんだよ」 「暖かそうなのに、へんなの」 雪を見ながら窓に手をつけた。 そう言えば、この窓いつもより冷たい気がする。 一時、手が冷たくなるまで、雪を見ていた。 ふわふわで羽みたい、あれが冷たいなんて信じられない。 「アネモネ?」 「何」 視線は窓の向こうのまま、返事だけをした。 「ココアを持ってきたよ、あとケーキも」 「イチゴがいいわ」 「うん、どうぞ」 冷たくなった手で、ココアをもらって、 ケーキの皿は下においた。 「アネモネは雪が好きなの?」 「わからないわ・・食べたこと無いもの、でも甘そうね」 「・・・」 「何よ」 ドミニクは吃驚したという顔のまま、こっちを見ていた 「何なのよ?」 「雪は、食べ物じゃないんだ」 「だから何?食べたらいけないの?」 「多分、水と同じ味がすると思うよ。」 「ふーん」 また、期待はずれ。 雪ってホントへんなの。 半分くらいココアを飲んだ。 「イチゴ頂戴」 「うん」 視線は、雪に向けられて、 口を開けて、イチゴを待った 口の中にイチゴが入ったのを確認すると、 そのまま、フォークを噛んだ。 「アネモネ?」 別に理由なんて無い。 甘い香りと、甘いイチゴの味が染み渡るまで、 フォークを離さなかった。 「今日はね、クリスマスって言うんだ」 イチゴが段々溶けてきて 「サンタさんが子供達にプレゼントをくれる日なんだ」 フォークを離した。 「サンタって誰?」 「誰だろうね」 イチゴの無くなったケーキを、少し切りながらドミニクは言った 「誰かわからないの?」 「うん、でもサンタさんは世界中の子供にプレゼントをくれるんだ。」 「どうやって?」 「それもわからないんだ」 「わからないわ」 いつの間にか、視線は雪から外されていた。 「朝目が覚めるとそこには必ずプレゼントがおいてあるんだよ」 「必ず?」 「うん」 「ふーん」 「いい子にしている子にだけ、くれるんだって」 「ドミニクも貰ったことあるの?」 「小さい頃、家族と住んでいたときだけ」 「じゃあ、ドミニクは今いい子じゃないのね」 「えっと、」 ドミニクは苦笑いをしながら、言葉を詰まらせた 「あたしも貰ったこと無いわ、いい子じゃないものね」 「僕ももう貰えないんだ」 「サンタって不公平ね、皆にくれれば良いのに」 「そうだね」 だから、これをサンタが持ってくることはないし、 デューイは忙しくて、そんな事してくれない。 だから、これをもってきたのが誰かくらい、あたしはすぐにわかったんだ 「おはよう、アネモネ」 「見て、ドミニクこれ」 「どうしたの?」 「朝目が覚めたらここにあったの、」 「よかったね」 持ってきた本人が嬉しそうに笑うから、あたしは何も言わなかった。 箱の中には、イチゴの沢山のったケーキが入っていて、 「わぁ」 「フォークとお皿もって来るね」 「早くね」 「うん」 ケーキを切ってもらって、あたしはイチゴを口に運んだ、 「おいし〜v」 「よかったね」 ケーキを少し切ってまた口に運ぶ。 外は雪が降っていて、窓は冷たくて、 この部屋は暖かい。 ケーキが甘くて、イチゴが沢山のってて プレゼントを貰った子たちもきっと、こんな気持ちなんだろうとか、 来年は、どんなものを持ってきてくれるんだろうかとか、 たくさんのことを考えながら、ケーキを口に運ぶ そう言えば、 「ドミニクは貰えなかったの?」 「えっ?あ、僕は貰えなかった」 「ふーん」 当たり前よね、本人だもの 「じゃあ、ドミニクにもあげるわ」 少し減ったホールのケーキから、イチゴをひとつフォークでさした。 「はい、」 「ありがとう」 柔らかく笑って、イチゴを食べたドミニクを見て。 外の雪を見て、ケーキを見る。 触れたことも、食べたことも無いけど、 あたしは雪が好き。