アネモネは指を抜いた
私は驚いて、その場に座り込んでしまった。

口内には、ジャムの甘さと血が混じり
何とも言えない味がした

クスクスと笑う声。



「アネモネ?」

「あんたホントに馬鹿ね」

そう言われた事よりも、
またジャムを絡める指から、目が離せなかった。

それを、自分の口に含み舐める。

それは、先刻まで私の口の中にあったのものだ

アネモネは、気にせず指を含みを舐めていた。

段々ジャムを直視するのが辛くなってきた。


「ドミニク」

名を呼ばれて、視線を向けた瞬間、またジャムの付いた指がある

「舐めて」


私は、何も言わずにアネモネの手を軽く掴み
なるべく、歯をたてずに指を舐めた。


「ここ」

「?」

「さっき切れたの?」
指で私の舌の傷を触る
声は出せないから、目で答えた。

「ふーん」

嫌な予感がした。







切れた舌の傷にまたアネモネは爪を立てた

今度は鋭い痛みが頭にまで響いた。

「い・・っ」

それでも、アネモネは指を抜かない

クスクスとまた笑う声がする。

血が、口の端から流れていた。

頼むから、もう爪は立てないでくれと、目で懇願したが
まるでどうでもいいような顔をされた。

「痛い?」

それは勿論。冗談じゃない痛みだった。


声にはまだ出せない。


指が抜かれた。


「っ、ゴホッ、」


私は、血を拭こうと白い布を手に取った

「もう無くなっちゃった」


いつの間にか、ビンは空になっていた。
布を持った手をそのままアネモネの口元に持っていった。
ジャムが付いていて拭きにくかったから、
コップに入れた水をしみこませてまた、
拭き取った。


アネモネは結んでいた髪を解いた。
「どうしたの?」


「もういいの、デューイ来ないわ」
そう言うと、ベッドに横になった

「・・・」


それから、一時間も経たないうちにアネモネは眠ってしまった。











眠ってしまったアネモネに、タオルケットを掛けて
解いた髪を指で梳いていた。

大佐は本当に来なかった

いや、やっぱり来なかった

いつも突然来るのに、来る日を指定した日はなぜか来なかった。
だから、アネモネには悪いけどなんとなく来ない気がしていた。
わざとなのか、それとも忘れているのかはわからない。


私は、静かに部屋を出て、色んなお菓子を持ってきてベッドに置いた。
起きても悲しくないように。
紛らわせるように。



「アネモネ」
自分じゃ、紛らわせるくらいしかできないから。
大佐のように喜ばせることはできないから。

「ごめん」