過ぎてく時間











ある程度話に切がついて、部屋に戻ることした。
ドアを開いたそこは、昨日と殆ど何も変わらない

何も。



「あっヒルブレヒトさんお久しぶりですの」
「メルクーリオ、身体はどうなの?」
「えと、はい、大丈夫ですの」
「そうかい」
「ヤマトさんは外出されてますが御用時ですか?」
「そうか、いないのか」
「あっでもすぐ戻られるとおっしゃていました。私留守番してますの」
「じゃあ、僕も待つことにするよ」
「では、私お茶をお持ちしますの」
「ありがとう、ゆっくりね」
「はいですの」

何分もしないうちに、食器の割れる音がした。
「はぅ〜」
「・・・」



「メルクーリオ、大丈夫かい?」
「あ、はいですの」
「だから、ゆっくりやりなさい。」
「はいです;;」






「ふ〜」
「・・・」
「あ、おまたせしましたの」
カップに口をつけた。


「あの、ヒルブレヒトさん?」
「ん?」
「この前の本を整理している時に、私あまりお役に立てずに」
「あれは、あのあと、片付けてくれからね。」
「あっでも、私その、」
「いいよ、大丈夫だから。」
「あっはいですの」
まだ心配そうな顔をするメルクーリオ、
昔から、失敗は多いけどその後あきらめずに、最後までやるところは評価している。

「そういえば、メルクーリオは彫金をしていたのかい」
「はい、まだ上手くは作れませんが・・、今日は指輪を作ってますの」
「だいぶ増えたんじゃないの?あれから、ずっと作ってる様だしね」
「はいです、お部屋に飾ってますの」
「そう。」
「はいですの」
それから、少し最近の様子とか、ハルヒコのことを話した。


「さて、じゃあ僕は行くよ」
カップを置いた。
「あっ、ヤマトさんはよろしいのですか?」
「遅くなるみたいだしね。」
「そうですか・・」
「じゃあね」
「あ、はいですの」
メルクーリオの頭を撫でて、それからドアに手を伸ばした。
「・・ヒルブレヒトさんっ」
「ん?」
「あの、彫金の材料にお花を」
「資料かい?どんなのがいいの?」
「えっと、」
「じゃ、ヤマトが戻ってたら、僕の部屋においで」
「あ、はいですの」
「じゃあね、あとで」
「はい、ありがとうございますの」







コンコンとドアがなった。
「どうぞ」
「ヤマトさん帰ってきましたの」
「そうかい、じゃあ、後で鑑定が終わったと伝えてくれるかい」
「はいですの。・・あの、えっと、」
「ん?」
「えと、この前のお詫びにこれを///」
「うん」
「あまり上手くありませんが、えっと///」
包みを受け取った。
「ありがとう、後であけるよ」
「はいですの、あの、私ヤマトさんに伝えてきますの//////」
「うん」
花の資料はいいんだろうか。
そのまま、メルクーリオは走って部屋を出た。


包みを開けた。
「・・これはまた、鑑定しがいのあるものだ」
遠くでまた、聞こえる躓いてこけただろう声。
「全く、」
指輪をテーブルに置いて、席を立った。


「大丈夫かい?メルクーリオ」

もうその名を呼ぶことは無いけれど。






窓から入る光
風になびくカーテン

流れていく時間。

テーブルに置いてある指輪を手に取った
決して上手くはないが、丁寧さを感じる。

一生懸命彫金をする姿は何度も見た。
彫金だけではない、何をするのもひたすら一生懸命、
失敗しても笑顔を絶やさない姿に、
煩わしさは感じなかった。


ひとしきり見つめたあと、指輪を引き出しに仕舞った。


何一つ変わらない空間でも、
彼女が居た証だけは、消えることは無いだろう。